はじめに──なぜ“同じ物件”なのに売却価格は数百万円も違ってくるのか?
あなたが持っている物件、それ、本当に“高く”売れますか?
不動産の売却価格は、立地や築年数だけで決まると思われがちです。けれど実際には──売却当日までにどれだけ仕込めたかで、驚くほど大きな差が生まれます。
今回は、不動産ファンドの現場で数多くの売却を見てきた筆者が、**個人投資家でも実践できる「高く売るための7つの準備」**を徹底解説します。
1. 数字を整える──実績こそ買い手の判断基準になる
不動産の売却価格は、収益還元法(NOI ÷ 利回り)で決まるのが基本です。そして、NOI(純収益)は**「現時点の実績数字」から評価されます**。
たとえば──
月1万円の家賃アップは、年間12万円の収入増。
仮に利回り5%で売却するなら、12万円 ÷ 5% = 約240万円、そのまま売却価格が上がる計算になります。
同様に、月1万円のコスト削減でも同じだけ価格は上がります。
たった1万円の改善でも、売却時には数百万円の差になるのです。
このため、礼金やAD(広告費)ではなく、「継続的に得られる賃料」こそが価格評価の核心になります。
- 賃料は上げられるなら上げておく。更新タイミングは最大のチャンス
- 原状回復や修繕は、過剰にせず「印象改善」に絞る
- 修繕費や管理費のコントロールも、利回りアップに直結します
数字が整っている=「手堅く、買っても安心」と買い手に判断され、価格交渉も有利に進みます。
2. トラブルを潰しておく──“やっかいそう”に見えるだけで買い叩かれる
買い手が一番恐れるのは、見えない・面倒なリスクです。
- 境界未確定 → 測量・立会いが必要で敬遠される
- 賃貸借契約書の不備 → 金融機関からの指摘で融資NGも
- 滞納 → トラブル処理が面倒そうと見なされる
売主からすれば「大したことない」と思っても、買主にとっては“面倒”というだけで値引きの口実になります。
可能な限り、「引き継いだらすぐ安心して運用できる」状態にしておきましょう。
3. 資料を揃える──「この物件、手堅いな」と思わせる裏付けを用意
購入を検討する買い手やその金融機関は、物件資料の整備状況から管理状態や信頼度を判断します。
揃えておくべき資料は主に以下の3カテゴリ:
種別 | 内容例 |
---|---|
収支関係 | 家賃入金履歴、管理費支出、収支推移表 |
権利関係 | 登記簿謄本、境界確認図、賃貸借契約書 |
設備・修繕 | 修繕履歴、図面、施工写真、保証書 |
「このオーナー、ちゃんとやってるな」と思わせるだけで、不安要素が減り、交渉力も高まります。
4. 見せ方を整える──資料と写真の“印象”で価格が変わる
物件の第一印象は、「資料と写真」で決まります。いくら中身が良くても、見せ方が素人くさいと印象はガタ落ちです。
- 間取り図は簡素でもOK。要点と清潔感があれば◎
- 外観・室内・共用部・周辺環境の写真は、明るく整った状態で撮る
- 専門のマンション販売図面を参考にすると良い
仲介業者はここまで手が回らないことが多いため、売主自身が“売りたくなる資料”を作る意識を持つべきです。
5. ターゲットと営業スクリプトをつくる──“誰に売るか”で訴求内容が変わる
同じ物件でも、「誰に売るか」で伝えるべき情報は変わります。
想定ターゲット別・訴求ポイントまとめ
ターゲット | 訴求ポイント |
---|---|
不動産業者 | スピード勝負。現況渡し/早期決済OK/価格調整余地の明示など |
個人投資家(リスク志向) | 実績数字+将来性(再開発、相場上昇、増築余地)を強調 |
個人投資家(安定志向) | 稼働率・修繕履歴・管理体制・収支の安定性を重視 |
外国人投資家 | エリアや物件の特徴を、外国人にも分かりやすく可視化して伝える(地図・写真・英語対応の資料など) |
これが「属性相性」という考え方です。買い手が欲しい情報を先回りして出すことで、迷いを減らし、競合に差をつけることができます。
また、仲介が営業しやすいように:
- 修繕履歴や物件の強みを、営業トークとして整理して渡す
- 想定質問と回答(QA)を事前に書き出す
買ってほしい相手に、届く言葉で話す。 それが「ターゲット営業」です。
6. 内見は「現地仕込み」で差がつく──第一印象で買い手は決まる
売却時の内見は、現地に入った瞬間の第一印象で大きく勝負が決まります。
「管理が行き届いている物件だな」という空気感は、買い手の心理に直結します。
そのため、内見前には以下のような仕込みをしておくと効果的です。
- 室内の掃除を済ませておく
- 放置物や雑草を片付けておく
- 空気を入れ替えておく(湿気・におい対策)
- 全ての照明を点灯して明るい印象にする(昼でも)
- 夏場は冷房、冬場は暖房を軽く入れておく
こうした細かい準備だけでも「きちんと手入れされてきた物件だな」という好印象につながり、価格交渉でも有利になります。
さらに、当日売主が立ち会うことで、現地でしか伝えられない情報を補足できます。
- 「このエアコンは2023年に交換済みです」
- 「給湯器は昨年新品にしています」
わざわざ営業トークをする必要はありません。
“細かい質問にも即答できるオーナー”という安心感が、買い手の不安を自然と減らしてくれます。
7. 仲介手数料は満額で依頼──値切って“後回し案件”にされるな
意外と見落としがちですが、仲介業者はインセンティブで動くビジネスモデルです。
手数料を値切ると、「面倒で儲からない案件」として扱われがち。
- あえて満額で依頼し、代わりに情報提供・営業サポートを徹底する
- 「売ってください」ではなく「売らせてあげる」スタンスがベスト
実は、プロの現場──たとえばファンドやREITでは、仲介手数料をかなり値切ります。しかし、それができるのは年間で数百億円規模の売買をする超太客だから。個人投資家が真似できる戦略ではありません。
むしろ個人の場合は、「仲介をいかに味方につけるか」が売却成功のカギです。
手数料満額で協力体制を築き、情報共有や準備をしっかり行う──
そうすることで、他の案件より優先して動いてもらえる可能性が高まります。
おわりに──売却とは、“買わせる”覚悟の戦い
価格を最大化するには、ただ「売りたい」と思っているだけでは足りません。
買い手を想定し、物件を魅せる工夫を凝らし、手間を惜しまず整える。
それが“高く売るための覚悟”です。
この記事が、あなたの出口戦略にとって一つの指針になれば幸いです。
「こういうケースはどう判断すべき?」など、ご質問・ご相談があればお気軽にお問い合わせフォームからご連絡ください。不動産の現場に根ざした視点で、全力でお応えします。
それでは、またひみつ基地で!
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