はじめに──完璧な物件でも売れないことがある
築浅、高利回り、テナントも順調に入っている。違法建築でもないし、立地だって悪くない。
そんな「完璧に見える物件」が、まったく売れない──。
これ、実は不動産投資の世界ではよくある話です。
しかもこの落とし穴にハマるのは初心者だけではありません。不動産ファンドや機関投資家といったプロ中のプロでも陥ることがあります。
なぜこんなことが起きるのか? それは“出口(売却先)を具体的にイメージせずに買っている“からです。
この記事では、筆者の実務経験をもとに、「出口戦略」の重要性と、初心者が絶対に避けるべきポイントについてわかりやすく解説していきます。
プロでも陥る「売れない物件」の罠
不動産ファンド──それはメガバンクや大手デベロッパーの出身者など不動産&金融の猛者たちがしのぎを削る世界です。
数十億、数百億の資金を機関投資家から預かり、徹底したリスク管理と調査を経て物件を取得します。建築士や不動産鑑定士を巻き込んだデューデリジェンスも当然実施済み。
それでも、マーケットに合っていない物件を買ってしまうことがあるのです。
たとえば、地方都市の大型オフィスビル。
東京のオフィスビルが高騰している市況では、「地方なら高利回り」「地方でもテナント需要さえあれば問題なし」と考えるプレイヤーが増えます。しかし数年後に売却しようとしても、全く売れない。
理由はシンプル。その地域に、数十億円のビルを買えるプレイヤーがいないから。
地方の有力企業ですら、「それだけ出すなら都内の物件を買う」と考えます。ファンドやREITも、興味を持つのはごくわずか。その“一握り”に断られたら、もう出口がないのです。
高利回りという数字に安心してはいけません。その利回りを実際に買ってくれる人がいるかどうかが、最大のポイントです。
実例:誰にも届かなかった1.5億円の邸宅
筆者が仲介時代に担当した、都内の閑静な住宅街に建つ1.5億円の邸宅。
建築家が自邸としてこだわり抜いて建てた、まさに“作品”のような家でした。
外観も内装も申し分なし。にもかかわらず、売れない。
「1.5億も出すなら、自分で好きに建てたい」 「同じ価格なら高級マンションの方が便利」
そう、誰のニーズにも刺さらなかったのです。
これが1億円弱の建売住宅なら中流層に売れたかもしれないし、3億円の大豪邸なら富裕層の目にとまったでしょう。
でも1.5億という価格と、こだわりの仕様が絶妙にミスマッチだった。
こうした「ちょうど誰も買わない価格帯と仕様」の物件は、想像以上に多く存在します。
「相場価格」でも売れない理由
よくある誤解が、 「この価格は相場的に妥当だから売れるはず」という考えです。
でも現実には、価格が妥当でも“買いたい人がいなければ”売れません。
たとえば、漫画『すごいよ!!マサルさん』などで知られるうすた京介さんが、鎌倉に建てた自宅(価格1.68億円)を売りに出していたものの、長らく買い手がつかなかったという例があります。
建物はデザイン性が高く、立地も環境も良好。それでも売れなかったのは、やはり「その価格帯で買いたい人が、その場所にいなかった」からです。
つまりこれは、“物件の質ではなく“市場とのミスマッチ”によって売れなかった典型例です。
▶参考:うすた京介、北鎌倉豪邸の買い手を募集「もう2年半以上売れていない」
価格でも仕様でもなく、“そのマーケットで、それを買いたい具体的な一人がいるかどうか”が重要なのです。

理想のお家。でもマーケットに合わなければ数年売れないこともざらにあります。
初心者が気をつけるべき3つのポイント
不動産を買うときは、「売るときに誰が買うか」を必ず考えてください。
- 価格規模がエリアに合っているか?
足立区に1億円の注文住宅──たとえ坪単価が割安でも、それを買う人がいなければ売れません。地域の購買層と価格がミスマッチな物件は、どれだけ理屈が通っていても出口が詰みます。 - ターゲットと仕様がマッチしているか?
中古アパートなのにフルリノベで高級仕様、ファミリー向けエリアにワンルーム特化型…など、買う層と仕様がズレていれば、手間をかけた分だけ回収が難しくなります。 - 万人ウケする物件か?
売れなそうな物件は、実際に売れません。なぜか?それは「他の誰かもそう思っているだろう」と皆が感じて、買うのをやめるからです。クセの強い間取り、奇抜なデザイン、狭すぎるターゲット層──どれも「これじゃ売れ残るかも」と思わせた時点でアウトです。不動産は“買いたい人が現れる”ことで初めて価値になります。平均的でも「無難に選ばれる物件」が、結局一番強いのです。
おわりに──買う前に“出口”を考える
出口が曖昧な物件は、どれだけ魅力的に見えても投資対象にはなりません。
売却戦略は、買う前から始まっています。
あなたが買おうとしているその物件── 売るとしたら「誰が・いくらで・どんな目的で買ってくれるのか?」
この問いに、自信を持って答えられるようになったとき、ようやく投資判断ができます。
くれぐれも、“売れない物件”を抱え込まないように。
出口が超具体的に見える物件しか、買ってはいけないのです。
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それでは、またひみつ基地で!
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